あえかなる 漢字。 「あえかなる薔薇撰りおれば春の雷」の句で「あえかなる」の意味...

懐かしの旧制高校寮歌

あえかなる 漢字

[pixivimage:56537172] このような感じの捏造未来小説になります。 わりと心の広い方向け。 [newpage] ダンテ・モグロは鉄華団の一員である。 地球支部の設立にあたり、情報技術を買われて火星から移動するメンバーに選ばれた。 そのはずなのだが、彼はほとんど事務所にも倉庫にもいなかった。 彼が主に入り浸っていたのは蒔苗東護ノ介に宛がわれたとある部屋である。 事務所とは正反対の方角にある雑居ビルの地下。 見た目では想像できないほどに情報機器の整った空間で、彼は端末をいじっていた。 慣れた手つきで指先が刻むのは、ハッキングのコードである。 ダンテはここでギャラルホルンの動向を探っていたのだった。 どこに施設があって、どれだけの武器やモビルスーツ、モビルアーマーが配置されているのか。 それらがわかるだけでも十分な情報となる。 なぜ彼がこのようなことをしているかというと、鉄華団がギャラルホルンに恨みを買っているから、という端的な理由である。 鉄華団としては仕事の障害となる存在を排除したに過ぎないが、対外的に見れば歴史ある一大組織の鼻っ柱を盛大に折り、その暗部を露呈し、権威を失墜させたという状態である。 この一年で逆恨みに近い喧嘩を吹っ掛けられたのは一度や二度ではない。 だからダンテの行動は転ばぬ先の杖とも取れるのだ。 そうして、この仕事には思わぬ副産物がある。 「よし」 倉庫の機材情報の吸い上げに成功した男はパシンと膝を打った。 データベースには最近購入された武器や弾薬のリストが記載されている。 こうした情報は、金になるのだ。 自社の製品を売りつけようと企む武器商人だったり、ギャラルホルンに対抗しようとしている内紛地域の有力者だったり、商売相手はさまざまだが、蒔苗の伝手によってそれなりの額で取引されている。 鉄華団地球支部が少人数でも運営できているのも、実はダンテの仕事による収入が大きい。 (ここの取引額は、やけに高いな) 男が目をつけたのはとある施設の設備費用だった。 規模から考えれば過剰な投入ともいえる物資の取引量。 何かある、ときな臭い世界で育った経験が告げている。 そうして何かあるということは、情報として価値があるということだ。 (でも、これだけじゃあな) 情報に必要なものは、まず第一に鮮度、そうして信用性だ。 ダンテが手にした金の卵を孵化させるためには、まだ足りないものがある。 情報の確度を高めるため、男は現地へと飛ぶことになる。 ギャラルホルンの施設にほど近い山中で、地下から掘り起こされたケーブルに自身の端末を有線で繋ぎ、ダンテは作業に没頭していた。 対外的には物資保管庫とされている中規模の施設には、どうやら秘密の地下施設があるらしい。 吸い上げた見取り図を眺めながら、男は指を躍らせ続けた。 施設内のエイハブ・リアクターは二機。 端末上に表示されたエイハブ・ウエーブの固有信号に、過去鉄華団が遭遇した機体のものが表示されていたからだ。 ぞっと全身の血の気が引く。 あるはずのない機体情報が、そこに表示されていた。 **アイン・ダルトンの仮初の死** 「戻ったぞ」 事務所の扉をくぐるようにして外回りから帰社した男は、背広をハンガーかけるとネクタイを緩め、自身の席にどっかりと腰を下ろした。 「お帰りなさい、ガエリオさん」 給湯室からひょっこりと飛び出した金色の頭が、迎えの挨拶を寄越す。 あえて見ないふりをしていたソファに寝転んだ黒くて小さなかたまりは、むくりと起き上がると男に向かって端末を投げつけてきた。 「……やっといた」 それは、彼に課した宿題であった。 ガエリオが鉄華団地球支部にひょっこりと戻ってきたのは、拉致事件から二週間ほどしてからのことだった。 「残務を放り出していくわけにもいかんだろう」 とは真面目なことである。 ただ、それだけでないことは事務所のメンバー全員がうっすらと感じていた。 以前のガエリオと今のガエリオでは、顔つきが違うからだ。 いくら普通にしていても、日常の端々で漏れ出る感情というものはある。 まるでヒューマンデブリの少年たちが見せていたような、世の中の不条理に傷つき、絶望し、怒りとやるせなさを、ガエリオもまた表すことがあった。 当人は気づいていなかったかも知れないが、三日月に向ける視線にはそんな感情が混ざっていることがあったのだ。 けれど今の彼の印象は、随分異なる。 例えるなら、沸騰して泡立っていた水面がすっと凪いだような、そんな感覚だ。 水の温度は変わらず高いままだが、上手くコントロールする術でもできたのかもしれない。 あるいは、それと向き合うだけの覚悟が。 人には人の事情がある。 それぞれ異なったものを抱えた少年たちは、心地の良い無関心さでガエリオを追求しなかった。 純粋にありがたいと思う。 タカキが用意してくれた紅茶を啜りながら、男は端末の文字を追うふりをして軽く息を吐いた。 結局あの夜、マクギリスを捕まえることはできなかった。 ガエリオが使用人と連絡を取り、アルミリアが水を用意している間に、友人は姿をくらませてしまったのである。 車のキーを預かっているという使用人の言葉に安心したのもいけなかった。 足がなければ外には出られまいと庭や邸内の捜索に重点を置いたが、気が付いた時には車が無くなっていたのだ。 おそらくスペアキーも携帯していたのだろう。 何とも用意周到な男である。 しかしそうしてマクギリスに逃げられてしまっても、それで彼らの生活が変わるわけではない。 呆けた表情で佇む兄妹をあざ笑うかのように朝はやってきたし、アルミリア経由で探らせれば、婚約者殿は翌日も至って通常通りに出勤し、涼しい顔で業務をこなしているという。 「お兄様……」 彼が何を考えているのかわからない。 そんな不安をありありと浮かべ、少女は兄を見つめた。 けれどガエリオには返せる答えがない。 小さな手を握りながら、柔らかな髪の毛を包み込むように妹の頭を撫でる。 「安心しろ、俺が必ず」 必ず、もう一度話し合いの場に引きずり出して見せるから。 そう決意して、ガエリオはボードウィンの家を後にした。 「ガリガリってさ」 「ガエリオ・ボードウィンだ」 沈む思考を、無遠慮な声が引き戻す。 すっかり定着してしまった不名誉な愛称に、半ば反射的に応えれば名を呼んだ少年はソファから半身を乗り出してガエリオに向き直った。 「ああ、それそれ」 「?」 それとは、一体? 要領を得ぬままきょとんとした表情でいると、三日月が言葉を続けた。 「ボードウィン、がファミリーネーム?」 「そうだが?」 セブンスターズに名を連ねる家の名は、ガエリオとは切っても切り離せない話題だった。 しかし、目の前の少年が権力や社会情勢に興味があるとも思えない。 仮に鉄華団に関係する誰かがボードウィン家にまつわる話を探ろうとしたところで、その役を三日月に任せるのは人選ミスに他ならないだろう。 ならば彼の目的は他にあるはずだ。 「トクムサンサって何?」 「特務三佐? ギャラルホルン監査局に居た頃の俺の階級だが」 紅茶のカップを置き、ガエリオは少年の話に意識を集中した。 過去の階級など鉄華団では一切関係ない。 それなのに三日月の口から零れる懐かしい響きが男の動きを止めた。 ガエリオのことを特務三佐と呼び、三日月が認識しているそれは、十中八九グレイズ・アインを意味する。 男の目が複雑な色を湛えながら少年を凝視していた。 なんとも皮肉な話だ。 ギャラルホルンの研究者たちは、モビルスーツと一体化したアインのことを個ではなくパーツとして扱った。 その癖に彼の仇敵は『でっかいのに乗ってたやつ』と、アインをアインとして、人として認識している。 尤も三日月からすればアインがどのような状態になっていたかは知る由もないし、もともとが阿頼耶識システムを組み込まれた少年たちの集団なのだから、ガエリオの捉える人間の定義とは少しずれているのかもしれないけれど。 それでもアインが人として自分以外の誰かの記憶にあることが、男にとっては救いだった。 「それで、あの機体のことなんだけど」 黙したままの男を他所に、三日月は淡々と続ける。 金属板に囲まれた広い空間。 上空から垂れ下がる無数のコード。 打ち捨てられた阿頼耶識システム研究のための残骸の中で、僅かに灯る灯りがある。 半壊状態の黒く大きな機体をぼんやりと照らすのは、通路に据えられたモニターのバックライトだった。 かつては赤く燃えていたモノアイも、今は黒く塗りこめられている。 一年前の戦闘で大破した機体は、パイロットもろとも回収され、極秘裏にこの施設に収められた。 表向きはただの物資保管庫。 その実態は、禁忌に手を伸ばすための設備を地の深くに隠した場所。 限られたものしか立ち入らないギャラルホルンの暗部に一人佇むのは、流れるような金糸をした男だった。 低い駆動音の唸る空間に、艶のある声が響く。 「やあ、具合はどうかな?」 隙のない所作で紡がれる挨拶に返事はない。 ただ沈黙だけが周囲を満たす空間は、マクギリスにとって非常に心地が良かった。 誰も彼に甘言を囁かない。 彼の足元を揺るがさない。 彼の領域を侵犯し、怒りの炎を脅かすことはない。 普段なら簡単な確認作業だけでその場を後にする男が、今日に限っては何をするでもなく黒塗りの機体の前に立ち尽くしていた。 アイン・ダルトン。 地球人と火星人のハーフ。 かつての上官を鉄華団に殺され、その復讐のために生きた青年。 ガエリオの部下としてガエリオに尽くし、彼を守って、そうしてマクギリスの目的のために利用された哀れな存在。 しばしの沈黙の後、ためらいがちに男は口を開く。 「ダルトン三尉、君ならどうした?」 問うたのは、ボードウィン邸での夜のことだ。 あの時、親友に伸ばされた手を、マクギリスは取ることができなかった。 許しなどいらない。 理解も同情も不要だ。 ただ怒りがあれば良い。 胸を焼く炎によってのみ、自分という船は進むことができる。 今もそう信じて疑わない。 けれど月光を背にした友人の真っ直ぐな瞳が、ずっとマクギリスを捉えて離さないのだ。 「全てを拒んで孤独に歩き続けるか、ありのままを受け入れて、惨めな醜態を晒すのか」 上官の復讐を諦めて、自分と共に歩もうと伸ばされる手があったなら、この青年はそれを掴むことができたのだろうか。 それとも絶望とともに振り払ったのだろうか。 黒い機体は沈黙したまま動かない。 知っていて男は訪ねた。 だからこれはきっと、盛大な独り言なのだ。 己自身を納得させるために、鏡に見立てたアインと対話をしている。 既に道は分かたれたはずなのに、こうして何度も振り返ってしまうのは、マクギリスのどこかに希望に縋ろうとする弱さがあるせいなのかもしれない。 鎌首をもたげた不安を握りつぶして、男はわざと意識を逸らした。 伸びたコードの先、青緑色の光が照らすモニタにはコックピット内部の様子が数値で表されている。 バイタルは安定、心拍数も脈拍も正常値。 機械に繋がれたまま、アイン・ダルトンは生きている。 否、数値の上でだけそう判断できるの状態を、生きていると言えるのか定かではないけれど。 世間でこそ悪魔と罵られた双斧の機体とパイロットであるが、阿頼耶識システムの研究所では一部の科学者から畏敬の念すら抱かれている。 人と機械の融合。 今までなし得なかった反応速度、成人男性の適合者。 モルモットのようにしか扱わない面々もいる傍ら、人智の結晶として崇拝する人材もいた。 彼らにとってアインはもはや人ではない。 生き物ではない。 それでも、 (ガエリオ、君なら彼を人間だと、そうして生きていると言い張るのだろうな) 物言わぬ青年に向かい慈しみの手を伸ばす友人の姿が、マクギリスにはありありと想像できた。 磔刑の胸像を、罪深き虚像を、妄信の神を、ガエリオは人に堕とす。 そうしてただ共に在ろうとするのだ。 それが赦しであり、救いであるとも思わないで。 「ダルトン三尉、君は私の切り札だ」 落ちたトーンで、男は呟いた。 恐らくガエリオは、またマクギリスの元を訪れるだろう。 半ば確信染みた予感が己の中にあった。 だからこそ、この機体が重要となる。 もう一度あの清廉さを地につけ、汚濁と怒りに塗れさせるための。 何度でも救いの手がマクギリスに差し伸べられるなら、その全てを振り払おう。 温かな手が血の涙を流しながら、鋭い槍の先端を向けてくるまで、何度でも、何度でも。 「また会える日を楽しみにしているよ」 どちらに向けたかもわからない言葉を残し、男は足音を響かせて立ち去った。 [newpage] いつも以上に整頓されたデスク。 前倒しで片づけた案件。 頑なに袖を通すことを拒んだ鉄華団のロゴが入った上着はしっかりと埃を払ってハンガーにかけた。 ガエリオはスーツの襟をきゅっと正し、気持ちを入れ替えて前方を見据える。 アインの生存の可能性が浮かんだ時、ガエリオの進むべき道は決まってしまった。 部下の誇りと尊厳を取り戻すだけならまだいいが、命までつなごうとするならギャラルホルンの技術力は不可欠だった。 恐らくアインの傍にはマクギリスもいる。 己の勘がそう告げていた。 友人と部下と、ガエリオの大切な相手が二人も同じ場所に居る。 いっそ手間が省けて好都合。 そう前向きにとらえることにした。 針の筵に飛び込む覚悟は既にできている。 最後の仕上げは後始末をするだけだ。 「多くは語れないが、他にやるべきことができた」 治療費の返済を完遂し、給料分の残務もこなしている。 後は鉄華団を辞める話を正式に団長であるオルガに通せばいい。 未練がないと言えば嘘になる。 生意気盛りの生徒たちが日々成長していくさまを見守るのも楽しかったし、事務所での不毛な慣れ合いも、いつしか日常としてガエリオに染みついていた。 けれど、それを捨てても守りたいものがある。 「いいんじゃないの」 真剣な表情で切り出した退団の話を、三日月はあっさりと肯定した。 仮にも地球支部の支部長という肩書を持ちながら、この軽さはどうだろう。 若干の不安を覚えたものの、ガエリオが遅かれ早かれこうなるであろうことは漠然とした予感として支部の少年たちのうちにあったらしい。 残りのメンバーも、ガエリオの決断を仕方がない事だと受け入れてくれた。 世話になったような、こちらが世話をしたような、たった一年程度の不思議な関係。 それが今、終わろうとしている。 別れの挨拶をどのようにしていいか悩む男に対し、三日月がいつもの朴訥な様子で告げる。 「安心しなよ。 オルガなら、退職金はちゃんと出してくれるから」 だからガエリオは笑うことができた。 「ああ、そりゃ心強い」 この後、ガエリオ・ボードウィンはギャラルホルンへ復職することとなる。 すべては彼の部下と、友人に向き合うために。 彼らに手を伸ばし続けるために。 **生きる者らの確かなる** 豪奢な、それでいて主張しすぎない上品な調度品が並ぶ部屋。 一面に大きく開けた窓からは、緑のざわめきと青を透かした木漏れ日が差し込んでくる。 清涼感のある白いレースのカーテンに縁どられた絵画のような風景を横に、クーデリア・藍那・バーンスタインは注がれた紅茶のカップを手にした。 口に含めばほのかな香りが鼻先に抜け、喉を通った暖かさが心を落ち着かせた。 「お口に合いましたか?」 「ええ、とても」 「それは良かった」 自身も同じように紅茶で喉を潤し、目の前の男は笑みを浮かべる。 少し垂れた青い瞳、丁寧にセットされた藤色の髪。 クーデリアと対面していたのは、ギャラルホルンの軍服に身を包んだガエリオ・ボードウインの姿だった。 遡ること数週間。 火星から地球への旅路について自伝を書かないかという話がクーデリアに持ち上がった。 各地に働きかけるのに、自身と鉄華団の軌跡を明らかにするのは火星の現状をアピールする良い機会でもあったし、本を出せば印税が入る。 何をするにも資金が必要になることは、これまでで経験済みである。 クーデリアは出版社からの申し出を受けることにした。 そうして、蒔苗の伝手でそれを知ったガエリオは、早速クーデリアとの会談の場を設けたのである。 はじめはギャラルホルンにとって都合の悪い事を書かないよう、牽制されるのかと警戒していたクーデリアだったが、ガエリオに告げられたのは真摯な願いだった。 「貴女が皆の希望になるというのなら、その希望のひとかけらを、どうか俺の大切な者たちにも分け与えて欲しい」 クーデリアの視点だけで語られるギャラルホルンは、きっとお伽噺の魔王の軍勢のようになってしまうだろう。 それではあまりに偏りが過ぎる。 彼女が公正を望むのならば、ギャラルホルンの中にも志を高くして散っていった命があったこともそのテーブルに乗せるべきだ。 それをエゴだの甘さだのと笑う輩がいてもいい。 けれどガエリオは抗いたかった。 アインを貶め、カルタを嗤い、ギャラルホルン全体を悪いものだとする風潮を。 少しだけ言葉を変えて、優しい嘘を交えた真実を語れば、涙は真珠に、血は花に。 人の業に塗れた錬金術は、時に荒野を楽園に変える。 ガエリオはその魔法をクーデリアに使って欲しいと願ったのだ。 全てをなかったことにする気はないし、したくもない。 けれど、むざむざ誰かの悪意と好奇の目に晒すくらいなら、どうにかして大切な人たちの誇りを守りたかった。 悪者なんていない。 誰もが己の信じる道を歩いた結末がこうなっただけのことなのだと。 ガエリオの口から語られるギャラルホルンの内情は、クーデリアが今まで見聞きしていたものと違った側面を見せた。 彼らにも彼らの立場があり、信じた道があった。 誰もが譲らず、真っ直ぐな道を進もうとすれば、いずれは他の誰かとぶつかる時がくる。 「ボードウィンさんは鉄華団にいたことがおありだと窺っておりますが」 ひとしきり話に耳を傾けた後、クーデリアは穏やかな調子で問いかけた。 「ええ。 僅かな期間ですが、子供たちに勉強を教えていました」 良い子たちだったでしょう? とほほ笑みかければ、僅かにガエリオの営業スマイルが崩れる。 「とんだ悪ガキどもでしたよ。 口を開けばやれクーデリア先生の方が優しかっただの美人だっただの、ですから」 優しい優しくないはともかく容姿にとやかく言われたくはない。 そもそもガエリオは男でクーデリアは女だ。 教える内容に美醜は関係ないだろうと怒れば、内容には関係なくてもモチベーションに大いに影響するのだと小さな子供に正論で返された。 その時のことを思い返し、男の眉間にしわが寄る。 ポーカーフェイスに徹しきれない様子がおかしかったのか、少しだけクーデリアの纏う空気が和らいだ気がした。 「良い先生だったのですね」 そういえば、ガエリオの教えた子供の一人は最近髪型を変えていた。 たぶん目の前の人物を真似たのだろうことは明らかで、それがなんだか微笑ましい。 そのことを後任の教諭に伝えてやれば、「なんだあいつは、散々突っかかってきたくせに」と小言を延べつつ、まんざらでもない表情である。 そうしてクーデーリアは確信する。 ガエリオは信用に足る人間なのだと。 長い睫毛を一度伏せ、決意と共に少女は瞳を開いた。 「ボードウィンさん」 「はい」 「自伝の件、お受けいたします」 できる限りギャラルホルン側にも公正な描写をする。 クーデリアはそう約束した。 そうすることが、彼女の責務だと感じたからである。 それを制し、クーデリアはほほ笑んだ。 かつて孤独な戦いに挑んだ彼女を支えてくれたものたちがいる。 その絆が、言葉が、今も彼女を強くしてくてれいる。 「いいえ。 このくらい当然です」 「え?」 「だって鉄華団は、家族なのですから」 僅かな期間とはいえ鉄華団に属し、その時の思い出を大切にしてくれている存在。 それならば、クーデリアにとってガエリオもまた絆でつながった家族なのだ。 そうして家族の幸せを願うのは、鉄華団にとって当然のことなのだから。 クーデリアとの対談を終え、一足先に退室したガエリオは化粧室に向かっていた。 不覚にも彼女の言葉にぐっと来てしまったためである。 これでアインもカルタも最悪の不名誉だけは免れるだろう。 そう思ったら、少しだけ気が緩んでしまった。 けれどホストである以上みっともないところは見せられない。 ぴしっと折り目正しく客人を見送るまでがガエリオの務めだ。 だからその前に身だしなみを整えておこうと思っていたのだが。 「あ、ガリガリ」 「ガエリオ・ボードウィンだ。 何度言ったら覚える!」 耳に馴染んだ愛称に、脊髄反射のツッコミが冴える。 ガエリオの正面から歩いてきたのは数か月前に見た顔だった。 三日月・オーガス。 クーデリアはここまでの道中、鉄華団に護衛を頼んだと言っていたが、彼もその一員だったらしい。 「……久しぶりだな」 「うん。 久しぶり」 思いがけない再会に、男の返せる言葉は少なかった。 「調子はどうだ?」 民衆の支持を受けた鉄華団が破竹の勢いであることも、革命の乙女を守ったバルバトスのパイロットが今や時の人なのも、ガエリオは知っていた。 「まあ、ぼちぼちかな。 そっちは?」 「天下のミカヅキ様ほどではないさ」 実際問題、ギャラルホルンに戻ったガエリオを待っていたのは冷ややかな視線と落ちた階級。 辛辣な批判の目に晒される日々だった。 アインとマクギリスまでたどり着くにはまだいくつもの苦難を越えなければならなかったが、それでも一歩一歩進むよりほかにはない。 世間の評判などどうでもいいといったクールな対応を見せる子供に、あえて大人げない嫌味で返せば、少年もそれに乗ってくる。 「折角だからサインでもしようか?」 「ああ頼む。 支部長殿がどれだけ上手な字を書けるようになったのか見てやらんとな」 こうなったらオチが付くまで引けない状態である。 懐から手帳を取り出し、白紙部分にペンを挟んで放ってやれば、少年は片手で軽々とそれを受け取って動く方の手で器用に文字を綴った。 「はい、できた」 「お前、コレ……」 投げ返された手帳に視線を落し、男は隠すことなく渋面を作る。 ガエリオが教えていたのは英語のスペルだったにも拘わらずだ。 「このクソガキ」 「先生の教え方が良かったせいだ」 ああいえばこういう減らず口に、男はわなわなと握り込んだ手のひらを震わせる。 こいつ一発ぶん殴ってやろうか、そんなことを考えていた時だった。 「うん。 辛気臭いより騒がしいほうが、やっぱガリガリって感じがする」 「はぁ!?」 「準備するなら早くしなよ、クーデリアが待ってるからさ」 それだけ告げてすたすたと去っていく背中。 振り上げたこぶしの行先をなくし、ガエリオはその場に立ち尽くした。 自分よりも年下の相手に随分といいようにあしらわれたのに、男の口元にはなぜか笑みが浮かんでいた。 変わらない過去があって、変わっていく未来がある。 そうして世界は続いていくのだ。 胸に宿った希望の灯りを消さぬよう、ガエリオは一歩前に踏み出した。 死せる彼らのあえかなる 了.

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5月9日(金曜日) あえかなる白きうすものまなじりの火かげの栄(はえ)の詛(のろ)はしき君(みだれ髪): kingstone page(新)

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経歴・人物 [ ]• 五歳までの日本人居住区に住んでいた。 妹がいる。 動物が好きでペットに犬2匹(、)と猫を飼っており、出演しているインターネットラジオ番組『』の放送内でも度々語られている。 声優の仕事をする前はスポーツのをやっていた。 中学校の教師のも持っている。 エピソード [ ]• に声をあてるための名前は仕事の依頼が来るたびに予め用意されていたが、台本ごとに自分の名前が違うという混乱が起きるので統一することになった。 名前の由来は友人二人(男女)の姓と名を貰い、漢字を充てたもので「飲み屋でつけた」と、『』番組内で語っている。 サインは、ただ平仮名で「のじまかな」と書いただけのものだったが、『』にゲスト出演したときに新しいサインを募集。 番組に応募されたものを参考にして新しいサインを作った。 母親と似ていないため、小さい頃怒られた時に「橋の下で拾ってきた」といわれたことがある。 ただし、妹が怒られていた時には逆のことを言われていたそうである。 出演 [ ] 太字はメインキャラクター。 アダルトゲーム [ ] 2001年• (馬頭 ほむら)• (大見 結亜) 2002年• コミックカフェ(逢坂 千絵)• 隷嬢キャスター2( 仁科 響香)• ぱにっく!! けろけろ王国(レウィセ)• (入間 佐知美)• (プレコ)• ( カナナ)• ( シンシア) 2003年• (ペルセポネ)• 女教師二十三歳 DVDPG(ナレーション)• (山田 穂波)• (オセロット)• (松下 ナル)• ( 鰍山 碧唯)• (ペルセポネ)• 特命教師瞳 DVDフルボイス(馬頭 ほむら)• (草薙 真貴)• (その他)• (匂坂 みさき)• (佐倉 杏香) 2004年• (山田 穂波)• (野上 佐枝、榊原 瑞紀) 2005年• (Nagi)• (鈴木 ぼたん)• Vol. 1 - 3、でらっくす(2005年 - 2012年、 エミット) - 4作品 2006年• (佐々木 菜摘)• (ともちゃん)• (橘 由香)• (ミフェリエ、クミル・ピペリネ) 2007年• (エルシスネ)• (霧ヶ崎 凪、塚原 耀)• (曹操)• (マルレーネ、パンドラ)• ( 木戸 茜) 2008年• (桂木 綺羅)• ( 曹操)• (リゼル・ザ・キラークイーン)• (霧谷 まひる)• ( 青野・クーデルハイツ・鈴蘭) 2009年• (相馬 菜月) 2010年• (浅葱)• (日枝 夏子)• ( 曹操) 2011年• (音遠=ドラグレスク=ブザウ)• ( 南條 怜奈) 2012年• (ヴラド・ツェペシュ)• ( 三橋 あおい)• ( セルリア・セレスタイト) 2013年• (シャル) 2014年• (エミット)• ( マーガレッタ・ラザントリア)• (ヴラド・ツェペシュ)• (FM77) 2015年• (曹操)• ( 曹操) 2016年• (ネム) 2017年• ( 曹操) 2018年• (曹操) 2019年• (曹操 )• ( カリン) 一般向ゲーム [ ]• (2005年、母)• (2010年、 華琳)• (2013年、ヴラド・ツェペシュ) OVA [ ]• ( 織節 真冬)• 痴漢のライセンス(三橋 あおい)• (2006年、 木戸 茜)• (大見 結亜) ドラマCD [ ]• サウンドトラック&ドラマ(2003年、ペルセポネ)• (2003年、入間 佐知美)• ドラマCD Vol. 1、2(2006年、Nagi)• (2009年6月29日同時発売)•

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波郷の薔薇: かささぎの旗

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ようこさん、ありがとうございます。 じつは、私も今朝これを打ち込みながら、波郷の人生をささっと横切りまして、明治大学文芸科に横光利一の講義めあてで入学したこと、松山の実家は農家だったこと、上京してからはお医者さまの俳人水原秋櫻子の経済的庇護のもと、馬酔木の編集事務を手伝ってたことなどを知りました。 わたしが知ってるのは、石橋秀野という山本健吉の最初の妻だった俳人の所属した「鶴」 昭和12年創刊 って俳句結社時代だけでした。 数年前、深大寺まで行きながら、波郷のお墓へ行きそびれたことは、とても残念でした。 年末に、山田みづえ解説の波郷句集を入手しました。 秀野を調べていた時、一度はざざっと目を通していたのです。 しかし、俳句全集に載っているものには、背景の説明とか一切ありませんし、ルビもありません。 当然ながら。 それが、山田みづえ編では付されている。 いくつか自分がこころのなかでこうよむと思っていたのと、ちがう読みをする句がありました。 それ、みづえ氏に尋ねてみたい気がします。 以前の私なら、ずけずけと聞くのでしょうが、もうそこまで若くはありません。 だんだんこういうふうになっていくのでしょうね。 さみしいような、あんしんなような。 投稿: かささぎ.

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